“首こり”と“うつ症状”の関係性。

今の精神病としての「うつ」診療とは

「心療内科」あるいは「メンタルクリニック」という看板を、街中でよく見かけるようになりました。今まで精神科の看板を掲げていたのが、よりソフトなイメージを出すようになりました。

こうしたクリニックは大はやりです。東京では、ひとつの大きな駅につき、周辺に5~10ヵ所くらいの心療内科やメンタルクリニックがあるほどです。そのため従来の精神病院に勤務する医師は少なくなり、精神病院は逆に困っているのだそうです。

たしかに、以前のような入りずらさはまったくなくなりました。それだけ心の病が誰にも身近なものになったのだと言えます。中でも、近年爆発的に増え続けているのが「うつ」症状に悩む患者さんです。

ひと口に「うつ」と言っても、それが指し示す内容はひとつではありません。「憂うつである」「気分が落ち込んでいる」というように表現される症状を「抑うつ気分」といいます。そして「抑うつ気分」が重症になったものが「うつ病」です。 一般的に「うつ」という言葉を使う場合、いろいろな程度の患者さんがいることを意味しています。

精神病のうつ病は、まだ発病のメカニズムが解明されていません。

しかし現在、頚性うつ(首から“うつ”)の患者さんはスマホの普及でどんどん増えており、うつ症状のある患者さんの多くは首の筋肉が原因の自律神経異常のうつです。
◆首からうつ「頚性うつ」の記事

先に首こり病(頚性神経筋症候群)の治療では治らないうつ病、つまり精神病のうつについて言うと「大うつ病性障害(大うつ病)」や「双極性障害(躁うつ病)」がそれに相当します。

「大うつ病」とは、症状の強い時は抑うつ状態が非常に強く、ほぼ一日中、ほぼ毎日、長期間(2週間以上)続くような症状を持つものを言いますが、大きな波があり、うつ症状がほとんど出ていない状態もあります。

アメリカ精神医学界が出している診断基準に基づく分類が一般的に使われていますが、そのガイドラインの内容は研究の進展に伴って刻々と変わっています。

「躁うつ病」は、抑うつの状態だけでなく、気分の異常な高揚が続く躁状態も併存するものをいいます。自殺を志向する人が非常に多いことで知られています。

これらの病気の患者さんについては、首に異常があるとは限らず、また首の治療をおこなっても、抑うつ状態が和らぐことはありません。

純粋な精神疾患ですから、治療は精神科による抗うつ剤を中心とした薬物療法、あるいは、カウンセラーやセラピストによる心理学的療法が必要になります。さらに、それでも治らない患者さんには電撃療法(電気けいれん療法/ECT)もおこなわれています。

しかしそれ以外のうつ病と診断された患者さんについては、首こりの治療によって抑うつ状態を緩和することができます。現在増加しているのは「大うつ病」や「躁うつ病」ではない患者さんです。

東京脳神経センターに来院する「うつ病」と診断された患者さんのうち、およそ9割以上がそれにあたります。つまりほとんどのうつ病は、首こり病(頚性神経筋症候群)の治療対象になるわけです。

精神疾患の大うつ病と、首こり病による自律神経性うつ病には、その症状にひとつの大きな相違点があります。それは大うつ病にだけ見られる「理由のない悲しみ」です。悲しみのため、いつも目に涙がたまっているとよく言われます。これは、首こり病による自律神経性うつ病(頚性うつ)ではまず見られません。

大半を占める首の筋肉が原因の「自律神経性うつ」の患者さんは、精神科医による抗うつ剤の投与やカウンセリング、電撃療法(ECT)では効果がまったくないどころか、途中で抗うつ剤の副作用に苦しめられ、治療できないケースも多いのです。

それは当然のことで、別の病気に別の治療をしているからです。これらは、器質的な原因、つまり自律神経の働き、それと密接に関係がある首の筋肉の異常によるものです。これを実証する臨床例は数え切れません。 ※前回の記事では、2020年1月14日に国際医学ジャーナル「ヨーロピアン・スパイン・ジャーナル」に掲載された当センターの研究グループによる研究論文で、うつ症状の完治率が78.1%であることを掲載しています。

抑うつ状態になるのは、精神疾患のせいではなく、自律神経と首、それと全身の不調という三つの要素が生み出す負のスパイラルが原因なのです。

もちろんそれは経験によって裏付けのある考え方です。松井医師によると、「うつ病」と診断された患者さんの頚部を触診すると、その大部分の人の頚部には異常があり、こうした患者さんへの首こり病(頚性神経筋症候群)の治療で抑うつ状態が消えてゆきます。その結果が上記の研究論文にある「78.1%」の改善率ということにつながってきます。つまり首の筋肉の治療でうつ病は治る、ということです。

こうしたケースの場合、顔の表情は暗く、すべてにおいて気分が落ち込んでいますが、治療をするうちに笑顔があふれんばかりとなり、人生が楽しくなり、例えば女性だったら選ぶ服の色などが違ってきて、明るいものを着るようになります。

そしておなかの底から笑えるようになり「もう作り笑いをしなくてよくなった」と言います。治療前に飲んでいた抗うつ剤は、うつ状態が軽くなってくるにしたがって飲む必要がなくなります。

こうした事実を前にすれば、すべてのうつ病が精神疾患であると考えて、抗うつ剤とカウンセリングと電撃療法(ECT)だけに頼っている今の治療は考え直す時期がきていると言えます。それに医療費の削減にもつながるはずです。

重ねて言いますが、現在「うつ病」と診断されているものの多くは心因性のものではなく、器質的なもの、とりわけ首の筋肉が原因になっていると松井医師は分析しています。

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