体がだるい、頭が重い、フラツキがある、寝付きが悪い、気分が沈むなどの「不定愁訴」は、どの診療科を回っても確たる診断が下されず、最後には心療内科へたどり着くことが多い。しかし心療内科でも、睡眠薬や安定剤などが処方される対処療法がなされるだけで、根本治療とはほど遠いのが現状です。
首こり博士・松井医師は、こうした不定愁訴の根底には、実は「首こり」があると見ています。専門的には頚筋(けいきん)が異常を起こすことで、副交感神経の働きが鈍くなるのです。
電車に乗っていると、ほとんどの人がうつむいてスマホを見ている。パソコンを見る際も、たいていの場合、下向き加減になります。このように首が長時間下向きに固定されると、首の筋肉の使いすぎを招き、その結果「首こり」によって副交感神経の働きが影響を受けて不定愁訴リスクが高くなります。
首の筋肉が異常を起こす原因は主に3つあり、「頭を打つ、むちうちなど外傷によるもの」、「スマホやパソコンなどを長時間使うことによる首の使いすぎ」、そして「元々首の筋肉が弱かったり、猫背などによるもの」と松井医師はみています。
そして近年ではスマホによる弊害が急速に増加しています。これについて松井医師は以下のように述べています。
「スマホが登場した2010~2011年以降、首の筋肉に異常が見られる人が激増した。首の筋肉は、ある程度までは使いすぎても元の状態に戻るが、一定レベルを超えると固くなって伸び縮みできなくなってしまう。診察時に、骨や鉄のように首の筋肉が固くなっている人をよくみるが、ここまでくると元には戻らないので治療が必要になる。アメリカでもスマホの普及と比例するように10代・20代の若者の自殺率が急増しているが、その原因がわからないため問題になっている」
首の筋肉の異常が起きるのは、首の後ろ側にある太い筋肉。うつむきがちの姿勢を続けると、首をまっすぐにしている状態より、およそ3倍も首に負担がかかる。ちなみに、頭の重さは平均的なボーリングの玉と同じ6キロ前後。頭を支える首が、うつむき姿勢のおかげで過度な負担にさらされています。
なぜ首を使いすぎると不定愁訴につながるのだろうか?
「首を使いすぎて首の筋肉がこると、副交感神経がうまく働かなくなる。副交感神経とは、睡眠や入浴時などに活発になり、体をリラックスさせる自律神経。どうして首がこると副交感神経の働きが低下するのか、そのメカニズムはまだよくわかっていないが、臨床上、多数の症例で確認はできている。副交感神経がうまく働かなくなると、眠りが浅い、寝付きが悪い、疲れやすい、気分が落ち込む、やる気が出ないなどの症状が現れる。重度になると、うつ状態となり、重症になるとほぼ全員が自殺念慮を持つことも分かって来ている。これらの症状は他の疾患でも起こりえるため、誤診されている例がとても多い」
本当は首こりが原因なのに、他の疾患だと誤診されているものには、うつ病、頭痛、めまい、パニック障害、慢性疲労、更年期障害、胃腸障害、ドライマウス、ドライアイなどがあります。
これについて、2019年6月、イギリスの学術ジャーナルBMCに、東京脳神経センター(理事長・松井孝嘉)の研究チームによる、首こりの治療と不定愁訴が80%以上の回復率を示す研究論文が掲載され、日経新聞、朝日新聞ほかにも取り上げられています。
首がこっている人は、ほとんどの場合、全身の疲労を訴える。副交感神経の働きが鈍くなると、原因不明の疲れが出てきます。この両者の関係はちょうど昔の井戸の水をくむツルベと同じ。副交感神経が正常で高い位置にあれば疲労は全く出てこないが、副交感神経のレベルが下がると原因不明の疲労が出てくることが多くの臨床結果からわかってきました。
「目が乾燥する」「口が渇く」という項目を不思議に思う人がいるかもしれないが、涙やだ液は副交感神経が働くことで分泌されるので、ドライアイやマウスは首こり病が原因となっている可能性がある。これらの症状が見られる患者さんの多くが首こりの治療で改善しています。
そのほかにも首こりの患者さんは原因不明の微熱の出ることが多い。何日も検査入院して結局何も異常が見られず原因がわからなかったという患者さんが検査の結果、首の筋肉に異常が見つかり、治療を行い正常になると微熱も消えるというケースがほとんどです。
ところで、首こり病の患者さんによく見られる、外見的な特徴はあるのだろうか?
それは、瞳孔の開いている人が多いということ。診察時に、瞳に光を当てても反応がない。副交感神経の働きにより瞳孔は閉じるので、副交感神経の働きが悪くなっている証左だと考えられる。そして、笑顔が作り笑いになっている人が多いという特徴もある。治療を行うと、ほとんどの患者さんに自然な笑顔が戻ってきます。
また、40代後半から50代の女性が悩む更年期障害も、実はその70%以上が首こりが原因となっていることが多い。 東京脳神経センターにて松井医師が診察した結果、女性ホルモンのゆらぎが原因となっている更年期障害は3割程度。残りのおよそ7割は、首こり病が原因と考えられる。婦人科でホルモン補充療法などを受けてみても治療が奏功しない場合は、首こりが原因ではないか疑ってみてほしい。更年期障害を訴える女性の多くが、首こりの治療を行うことで症状が軽快・消失しています。